大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(う)674号 判決 1971年12月15日

主文

原判決を破棄する。

本件を宇都宮地方裁判所大田原支部に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、宇都宮地方検察庁大田原支部検察官検事加藤栄の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、被告人<略>の弁護人相馬喜作の控訴趣意書に対する抗弁要旨と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用する。

検察官の控訴趣意は要するに、宅地建物取引業法(以下単に本法という。)第二条第一号にいう宅地とは、現に建物の敷地に供せられている土地のみならず、広く建物の敷地に供する目的をもつて取引の対象とされた土地を指称し、その地目、現況のいかんを問わないものと解するのが相当であるから、右宅地を現況宅地と解したうえ、被告人らが取引した物件は山林または原野であり、被告人らの行為は犯罪を構成しないとして無罪を言い渡した原判決は、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

しかして原判決が、本法第二条第一号(第二号とあるのは誤記と認める。)の規定する「宅地」すなわち「建物の敷地に供せられる土地」を現況宅地と解したうえ、各起訴状記載公訴事実によれば、被告人らの本件各所為は宅地予定地としての山林または原野の取引であつて宅地の取引ではないから、各公訴事実は本法第一二条第一項第二四条第二号に該当せず罪とはならないとして、事実を確定することなく、被告人らに対しいずれも無罪の言い渡しをしたことは判文上明らかである。

しかし本法は、終戦後における住宅事情の悪化に伴い暴利を貪る悪質な取引業者が横行し、国民生活に不安を及ぼしている実情に鑑み、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行ない、もつてその業務の適正な運営を図ることにより、宅地および建物の利用を促進することを目的として(第一条)制定されたものであることに徴すれば、本法第二条第一号にいわゆる「宅地」すなわち「建物の敷地に供せられる土地」とは、現に建物の敷地に供せられている土地に限らず、広く建物の敷地に供する目的で取引の対象とされた土地を指称し、その地目、現況のいかんを問わないものと解するのが相当である(昭和四五年(あ)第一八八九号同四六年六月一七日第一小法廷判決・刑事裁判集一八〇号登載予定、同四一年一〇月七日東京高等裁判所判決・東京高裁民事判決時報一七巻一〇号二二六頁、同三九年一〇月八日広島高等裁判所岡山支部判決・高裁刑集一七巻六号六一五頁)。原判決はこれに反し本法第二条第一号にいわゆる「宅地」は「現況宅地(あまり手を加えないで、そのまま建物の敷地として利用できる状態になつている土地)」に限定すべきであり、前記解釈は合理的常識的解釈の範囲を逸脱し、ひいては罪刑法定主義を危くする旨判示するが、原審の解釈は必ずしも十分な根拠を有するものとは認め難いのみならず、本法制定の趣旨およびその目的にてらし、現況宅地に限らず広く建物の敷地に供する目的で取引の対象とされた土地についても、本法にいう宅地としての取引につき本法による規制を加えるべき合理性および必要性の存在を肯定できるから、原審の見解は失当といわなければならない。

しからば本法第二条第一号にいう宅地は現況宅地に限るとしたうえ、これを前提として本件各公訴事実はそれ自体本法第一二条第一項第二四条第二号に該当しない旨判示して、被人らに対しいずれも無罪を言い渡した原判決は、法令の解釈適用を誤つたものであり、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八〇条により原判決を破棄して主文のとおり判決する。

(津田正良 青柳文雄 菅間英男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例